株式会社 金羊社

1926年(大正15年)に創業し、戦災をくぐり抜け、90年以上もの歴史を紡いできた金羊社。創業者である浅野剛は数々もの困難を乗り越えて、金羊社の発展に努めてきた。

当時のエピソードを交えながら、いまなお金羊社に受け継がれる浅野剛の「創業精神」を紐解いていく。

1920s

大正15年、金羊社創業。激動の時代を生き抜く。

大正15年、浅野剛は印刷業を営んでいた父・栄作のもとから独立、内幸町に事務所を構えた。これが、今日ある金羊社の創業である。ちなみに金羊社という社名は、栄作の干支と栄作夫人の名前にちなんでいる。

この当時は歴史的な不況で、国内の経済は沈滞ムードに包まれていた。しかし若き浅野剛は昼夜問わず精力的に働いた。

しばらくして芝の桜川町にあった、浅野剛の兄である浩が経営する浅野製版印刷所の工場へ移転。昭和初期、活版と組版だけだった金羊社はオフセット印刷を開始。当時勢いのあった日本ビクターをはじめとするレコード会社や映画、出版業界と共に発展を遂げるのだった。

ところが、やがて時代は戦争へと向かっていく。昭和16年11月、武器製造のための機械供出、徴兵による社員の減少など、事業の継続自体が困難な時代背景の中、金羊社は株式会社へと脱皮を遂げる。オフセット印刷機4台、活版印刷機3台をそろえ、当時の印刷業界にあっても、トップクラスの印刷工場であった。

現代と違い、当時「株式会社」を興すということは、大変な偉業であった。国をあげて戦争に向かっていたため、資金の調達はもちろん、 国策以外の動きは自由に行えない時代。ほとんどの経営者は事業意欲を失い、特に中小企業は、希望すら見出せない時代だったのである。

1930s

戦火により工場は消失。困難を乗り越え第二の創業へ。

株式会社となり必死に事業を継続していこうとした矢先、金羊社は苦難の時代を迎える。戦災は金羊社にまで及び、戦火によってすべてを消失してしまったのだ。もちろん、ここで諦めてしまっては今なお続く金羊社はない。

終戦間もない昭和20年12月、金羊社は小さな工場を手に入れる。場所は沼部。刷版機はなく、オフセット印刷機1台と活字を作る鋳造機だけの工場であったが、金羊社は立て直しを図ることができたのだ。

そして戦地からは次々と社員も帰ってきた。当時の社長宅は、家を失った社員たちで満員だったという。インフレと戦いつつ、浅野剛は少しずつ工場を整備していき、やがて社宅も構える。まさに第二の創業だったのである。

金羊社がこうしたさまざまな困難を乗り越えてきた背景には、何よりも浅野剛の人柄によるところが大きかった。浅野剛はいかなるときも目先の現実にとらわれず、ものの本質を見極め、社会から信頼されることを重んじた。だからこそ、工場を手に入れることができ、社員たちも安心して戻ってこれたに違いない。

1940s - 1950s

「正直な仕事をしないで成功した会社はない」浅野剛の人柄とは。
「正直な仕事をしないで成功した会社はない」浅野剛の人柄とは。

倒えば会社の資金繰りが苦しい時代であっても、給料の支払いはもちろん、社宅の整備をはじめとする福利厚生、社員旅行や運動会といった慰労のイベントなど、浅野剛は社員のための労力を惜しまなかった。まだ社員旅行というもの自体が珍しかった時代、金羊社はなんと二日間業務を休んで社員旅行を実行している。

浅野剛は、仕事に対する誠実さも徹底していた。「正直な仕事をしないで成功した会社はない」をモットーとしていた浅野剛は、約束はもちろん必ず守る人であり、印刷物の小さな不良も許さなかった。仕事に関して、こんなエピソードも残っている。
あるとき製品の一部に不良があり、それに対してある人が「不良品一枚くらい……」と言った。そのとき浅野剛は、真顔でその人を諭したという。
「これがもし医薬品だったらどうする。自動車や飛行機だったら、人命に関わる一大事だ。印刷物だからといって甘く見てはいけない」

こうした浅野剛のすべてに対する誠実さが、いかに顧客の信頼を得たか、いかに社員の意識を高めたか、そしていかに社会からの信頼へと繋がったか、改めて言うまでもないだろう。

Now

創業精神を受け継ぎ、これからも社会から信頼される企業を目指して
創業精神を受け継ぎ、これからも社会から信頼される企業を目指して

こうした浅野剛の誠実さを持ち合わせた創業精神は、いまなお金羊社に受け継がれている。それは当然のことだ。なぜなら、真理はどんな時代も変わらないからであり、そしてその理念が、今日の金羊社をつくったのだから。

現・代表取締役社長である浅野晋作はこう語る。
「金羊社の100周年のカウントダウンはもう始まっている。100年企業に入ることができることが楽しみである一方、時代に適した変化が求められる。90年もの間、金羊社は変わり続けてきたこそ、いまがある。だからこれからも歩みを止めず、恐れずに変化をしていくこと。それが金羊社にとって大事なことだ」

創業当時や戦後の困難と比べれば、現在私たちが直面している時代の混迷は、大したことではないと言えるかもしれない。しかし、だからこそ私たちはいま、さらに前に進まなければならない。先人たちの熱い創業精神を受け継ぎ、新しい金羊社を築いていくために。「新たな創業」を成し遂げるために。